| 概要 |
妻が語る。夫婦仲良く暮していた。ある日熊狩りに犬を連れてゆく。しばらく経って帰ってきたが、外で犬がなくので出てみると、青ざめた顔で立っている。そして葦(よし)で払い清めてくれというのでそうする。夫は入っていつもの場所に坐りおもむろに語り始める。夫が語る。いつもの通り山へ入ってゆくと、いつも通っていた道の筈だが道の脇に大きな穴があり、それにひかれて行った。暗かったが進む程に明るくなってきた。その入口に大きなスング(とど松)が立っている。その傍にクワ(死者の墓標)が新旧とりまぜて立っている。その向うに部落がある。そこで亡くなった人に出会うのだがそのすぐ横をすれ違ってもちっとも気付かない。ゆくうち海に出る。そこにベンザ(ダ?)イ(舟)が横付けしてある。そこから沢山の人が荷物の陸揚げをしているのだが皆死んだ人達であり自分の姿に気が付かない。大きな家にひきつけられるようにして入ると死んだ筈の両親が居る。客座にすわると両親は非常に怒ったような顔をして言うのに、ここは死者の世界でお前の来る処ではないのだがどうしても言ってきかせたい事があるのでこうしてお前をひき入れた。葬い[弔い?]の供物を葬儀を司る老翁がカムイフッチ(火の神)に報告する。誰がこんなものを持ってきたと。そのカムイフッチが死者の世界で報告する。新しくその世界に入ってきたその仏が今度はその世界で供物をしてくれた。一族の死者を招いて饗応する。しかし、お前が今までに一度も葬い[弔い?]の為の供物をしないので私達は肩身の狭いさみしい思いをしている。それをきかせる為にお前を呼んだ。これからはどこへでも供物をし、孫子にも伝えるよう言いきかせる。長居をする処でもなし早く帰りなさい。そう言われて元来た道を帰ってきた。しかし昔からの言い伝えで死者の世界へ言った者は長くは生きないといわれるから、私が死んでも子供孫達にもこの事をよく言いきかせなさい。妻が語る。その後間もなく老いた訳でもないのに夫は体のあちこちが悪いと言いつつ、衰えて死んでいった。だから、孫・子達、葬い[弔い?]の供物は死者の為でなく自分達の祖先[子孫?]の為でもあるのだから、怠らないように。アイヌの女の人達は語り継いだ。 |