日本昔話資料:稲田浩二コレクション
データ番号 Q05358-A01
題名 酒の神
題名(ヨミ) サケノカミ
時間 22分36秒
話者 :1902年生
収録年月日 1970-11-25
収録地 北海道白老郡白老町
収録者 稲田浩二
笠井典子
OWC AB11
日本昔話タイプ *アイヌ資料
概要 ある時にね、東の方のサルパていう国の方から、黒い着物をこううわっぱりに着たね、神様のような女がズーッときて、必ず酋長の家(うち)をな、訪れて宿を乞うと。そして、その旅からきた黒いうわっぱりを着た女としゅう長と物語をするのを聞いてると、神様の事を多く話しするって女が。神の国の事を多く物語ると。そうしておってやおら夕食になろうとするその前にその女がしゅう長からポローツギっていう酒を盛ったこうお碗がございました。ポローツギていうのは、大きな高つきってんです。そのポローツギを借り(エツン)て、そうすると後の方へ向いて、後へ背中の方へ向いて、そこに小便して、これをやおら酋長につき出してこれを飲みなさいとこう言うた。そこで酋長はね、女がそこに後向きになって小便しとんの見とんだね、飲みたくないとそれを拒むとね、酋長に対してチャランケをつけると。チャランケっていうのはね、アイヌ語でね、ケンダンていうか強談判ていうか知らんけどね、チャランケはね。チャランケをつけるとね、非常に女の方が雄弁でね、ほいて酋長を言いまかして、ほして酋長のいい宝物をね、いいイコオールていう飾り刀ていうか刀のいいやつをね、最高のやつ、一本ずつ取り上げて自分の部落の方へ来てるっていう話をずっとこう聞いてる。ずっとこう聞いてる。そうするとね、私の家内がこれはどうせ酋長の家より泊まらないんだから間違いなく家(うち)へ来るに相違ないんだから、あんたがどこかへ遊びに行って留守にしなさいと。あんたさえ居なければ私がうまい事言ってね、その女を今度、ぼい返すか他へまげるからね、あんたのどっかへ遊びに行けってこう言うんだってさ。けども自分はね、家内がそう言うんだけどもね、聞いても聞かん振りして、知らん振りしておった。ところがある日外にワンワンワンワンと犬のなき声が激しいとね、家内が外へ出て行ってみたら、ちょうど、アキアジが何かこうさかのぼって何か障害物あるとそれビックリして直ぐこう逆にもどるようにね、これトゥプシキルシコパイルってね。何か障害物があってアキアジが、こう登ったものすぐこうひっくり返すみたいに出た家内がすぐに戻り返して入ってきたっての。そしてね、それみなさい、私が言わない事でないんだと、あんたさえ居なけりゃ何とかうまい事言ってどっかへまげてやるのにあんたどっか行きなさいって言うのに知らん振りして、問題の女が来たよと言いながら家(うち)の中、座敷をすっかり掃いて、掃き終ったら敷物をきちんとしいて外へでてその女の手をたなえて導き入れたと。そしてね、そこへちゃんと上座の方へ坐らして、それから今度彼女と話してみると、なる程うわさにたがわず神様の事ばっかり主に話をすると非常に雄弁なんだってね。そうしておるうちに、夕食間近になったら酋長大きなトゥキ1つ貸して、高つき1つ貸して下さいとこう言う。自分が大きな盃をやったら、後の方かスマドの方か向いてそこへ今度、盃へなみなみと小便したやつ、それを今度、さあお飲みなさいって出した。それを今度は自分はね、ちゃんと神様さぁこうして拝んで、ちゃんと拝んでハアー、ンーってこうやってね、頂いてみたところが、今まで自分は酒を飲んだけれど、こんなおいしい酒を飲んだことないと、シサントントの和人の作ったその清酒だな、清酒それなもんだからね、自分はね今までこんなうまい酒飲んだ事ないってのな。そしてそれを、自分がね飲み干したら非常に彼女は満足して、それからよもやまの物語をしておる時に、家内が今度、上座の奥手の方にスッカラコの花ゴザを敷いて、ちゃんと寝床を作ってそして、その女に寝るようにこうしだって寝床をこしだって、家内が先に寝ちゃって、自分とその女とは色色な物語をしてるうちに、こんどその女に休んでもらって、私も寝た。酋長も寝たと。ところが、私がまだ目覚めているんだと思っておったところがいつまの間にか眠っておったら、私の枕べに明るいうちに来て色々と物語りした女が、私の方、後向きになって向うにおったのが、今度私の方に向いて、そしてやおら物語ったと。酋長よ、私は決して、人間ではないんだ。人間ではないという事はアイヌではないという事。アイヌって事、私どもで人間という事。自分は決してアイヌメノコではないんだと。私は神様なんだと。神様にも色々な神様がたくさんおるんだが、私は酒の神様、トゥンノットカムイだと。何故私がこういうような風に酋長の所へきたかというと、サルパの国の酋長の息子二人が交易に、舟一杯物を積んでね、交易に行ったっていうから、松前地方にでも福島の方にでも行ったかどうかね、ま、地理的に言えばさ、和人のいる所へ交易に行ったんでしょ。交易に行った留守に、そのサルパの国に流行病というか疱瘡(ホウソウ)つか何かはやり病がおきてね、その村が全滅しちまった。それを知らずに酋長の息子達が舟の中に色々な交易の品物、いわゆる和人の作った米だとか、それから刀とかトゥギとか、サランベという衣料類とか色々なものをね、舟一杯積んで帰ってきた。そして、二人で砂浜へこう舟あげて、部落へ行ったところが、みんな全滅していて、帰ってきた連中が今度、その疫病にかかって死んでしまった。二人とも死んじまった。さてところが酋長の息子達持ってきた色々のね、みつぎ物っていうか交易品な、酒もあればタバコもあれば、さあ、それから刀だとかイコールとか又トゥギとかサランベとか、色んな交易品が一杯あるかんね。その神々がね、こんど相談始めた。その神様達が、酒の神様、米の神様や、刀剣の神様とか沢山の神様、衣料類とかな、神様達が色んな相談始めたってな。私共が神様でありながら、今ここで手をこまねいて何にもしないっていうとね、私共はこの舟の中ですっかり腐って朽ち果てゝしまうんだとね。それ非常に私共は残念だと。ここいらで一番誰か1人神様をね、我々を代表して最も心の良いアイヌをね、酋長をね、1人みつけて持ってきて、そうしてね、我々を代表して最も心のよいアイヌの酋長をね、1人みつけて持ってきてね、その人に我々をね、授かっていったらね、私共は非常に幸福になるんでないかと。ただ、手をこまねいてそこですっかり腐っちまったってね、何にも神様としての価値もなくなるんだが、心のいい酋長ね、まず誰か使いに行ってそしてそれを見つけてきてね、その者に私共は授かったら私共より以上に幸福になるんでないか。こういう相談になった。さ、今度は誰か酋長探しにいくかちう事になったんね。よい事につけ、悪い事につけ、アイヌと神様の間をとりもつ、一番往復するのは、トヌトの神、酒の神様でないかという。こりゃ酒の神様一番適任だけれども、酒の神様に行ってもらおうという事で衆議一決したちうんです。そう言われたもの、自分はこの、皆の言う通りね、まずお使いに出る事になった。今度は自分はまず人間になった、人になった。人になってまず第一に酋長の家を訪れた。そして色々なお話をしているうちに、夕食間近くなるからこの高杯でこやつちょっと借してくれって言ってこう陰の方へ向いて、小便をしたと人間には見えるだろうけれども、自分の腹の中からお酒をこう出してね、ほしてこう酋長に飲めってやるとね、酋長、これ普通人間、女の小便だと思うんだけれどもね、飲みたくない、飲むのを拒んどったな。そうするとチャランケをつけて言い負かして、いい宝物一本ずつ取りながら来たんだと。来ながら自分は神様だから自分の進行方向、前途を透視してみると、これはお前の所まで来なければ自分の使いに出された目的を達成する事出来ないなという事を見通しながら来たと。果たせるかな、お前のおかみさんがね、こりゃ人間だか化物だか知らぬ、知らないものが来るんだから、あんたにどこか行って留守にせい、留守にせい、すすめられていたが、あんたがそんな事我関せずとして知らん振りしているのを前方見ながら来たっての。そしてあんたん所へきた処が、果たせるかな、自分が透視したように腹から出したお酒をあんたがちゃんと拝んでグーっといただいたと。これで私の役目はもう果たしたんだ。それで明日はもう私はサルバの仲間の処へ帰るから、お前は夜があけたら、お前の部落の者達みんな呼んで、こうこうこういう訳だからという事情を話して部落の人達に自分の持ってきた酒を飲ませると。飲ませた揚句に、屈強な足の丈夫な者達、何人かを選抜して、それを連れてお前達はサルバの方へ行きながら、自分が立ち寄った酋長の家へ寄って、その酋長の宝物を一本ずつ返し戻しながら、ずっと向うへ行けと。そして向うへ行って、サルパコタンへ行ってみれば、そこはもうすっかり家沢山あっても火の煙も何も出ないでね。もうすっかりみな全滅してるから、そこの家々から、いい宝物、刀とかエムシとかイコルとか何かそういうものどもね、とかトゥキとかといっていい宝物だけより出して、そしてそれにその部落に火をかけなさい。そして浜へ行けば浜には沢山の酒でも食い物でも一杯あるからそれを持ってきて、ほいて今度、シヌラッパ、いわゆる、その人達にたむけてね、死んだ人達にたむけ、神様にもちゃんとたむけてね、シヌラッパをしてから、舟にあるものね、お前達みんな分けて、背負ってお前等の部落へ帰ってきて、そしてお前の手下の者達にその人その人に応じて、色んなものをこう手当にくれてやって、お前が沢山宝物残って今までより以上に豊かな、裕福な酋長になるんだからそうしなさいと言われて、目覚めてみたら、こう家の中が白けておったと。そして、ひょっとこうその女の寝せた所を見たら、何にもそこに人影何にもなくて、酒樽一本たっとった。そして、おかみさんを呼んでこうこうだという話言ったら、私も同じ夢見ましたよ、とこう言う。それでその部落のものをさっそく呼んで、こうこうこういう訳でこの酒って言うものはこういう風にして授かったんだからって言ったら、部落の者達、ああやっぱり私共の酋長が誰よりも心の優しい立派な人であるが為に、神様からこれだけ莫大なお授けをこうむったんだと言って、部落の者達喜んでその、いわゆる清酒をみなでいただいて、それから足の丈夫な奴何人か選抜して、その者達を連れて、東の方のいわゆるサルパコタンという所へ行った。行きながら各部落へ寄って、酋長のとこん行ってお前のものはどれだと言って酋長の神の女が賠償に取ったもの達を返しながら今度向うへ行った。ほいてサルバコタンへ行ってみたら成程、神様の言った通り部落にも火の気も1つもない、煙も何もない。部落の人は全滅、1人もないわ。それから、中から、いいもの優秀なものばかり取り出してほして部落に火をつけて焼いちゃって、それから今度は浜へいって、酒だとか食い物なんかいっぱいあるんだから、タバコから酒から、米から色々あるんだから、そういうもの持ってきて、煮たりなんかしてね。ほして今度神様へあげ仏様にその部落の死んだ人達にシヌラッパをあげて、それから、舟にあるね、舟の交易から持ってきた舟の中にある物ね、みんなこういっぱい分けて背負(しょ)って、自分の家へ帰ってきて、今度又持ってきたお酒を又、部落の者達と飲んだり食ったりして、ほいて、ある人にはこれだけの品物、これだけの品物というような風に報しゅうを与えてね。ほいて、自分の部落の者達に返したけれども、自分は今までより以上に裕福な酋長になっておりますよ。
母よりきいた(12の時に目が見えなくなった。もの知りであった)