| 概要 |
昔ある所にいい家があり、下女と男衆をたのんだ。そこの主人は縁起かつぎだった。奥さんはその旨を新しい使用人に注意しておいた。元日の朝、新しいかめとしゃくで若狭の国の先祖ヶ滝の滝水をくんで、土びんに入れてわかし、福の神にそなえるときにおちてしまった。主人は縁起がわるいとなげいたが、吾平は「どびんつってもかなづるはかぎに残っているからめでたい」といった。しかし、福茶が流れてしまったと主人がいうので、吾平は「福茶で悪難、災難は流れた、あとにふきあがるのは福の神めでたい」といった。主人はよろこんだ。勝手からたけが出てきたので、何かだんなさんの気にいることをいえ、というと、「だんなさんのおつむながむれば金か銀かぴかぴかとめでたいな・・・」「だんなさんのおつむをながむれば、こがねのつゆかサンゴ樹の珠か、水晶の玉か、ころころとほっぺにお山となるわいなめでたいなー」といった。主人はたけに一文をやった。たけは「一文銭とはめでたいな、一文銭十たまれば十銭じゃめでたいな・・・」といっておどりだした。与平も、だんなさんも、奥さんも「めでたいな、めでたいな」といっしょになっておどりだし、その年は一つも災難がなかった。 |